そっと覗く鳥の托卵事情:知られざる他鳥たちの巣で育つひなの秘密
2025.6.6
目次
通常、動物たちの子育ては産んだ親によって行われます。しかし、鳥類には自分が生んだ卵を、別の種類の鳥に育ててもらうという鳥たちがいます。これを「托卵(たくらん)」と呼びます。
今回は、托卵をするというちょっと変わった子育てを行う鳥たちについて、詳しく解説します。
托卵とは

托卵とは、「托す(たくす)」+「卵」という2つの言葉をつなぎ合わせた言葉です。つまり、自分たちが産んだ「卵」の子育てを、他種の鳥に「托す」ということです。
自分たちではまったく子育てをせずに、他の鳥の巣に産卵して抱卵から一人立ちするまでの子育てのすべてを任せてしまうわけです。
托卵を行う代表的な鳥
托卵を行う鳥類のうち、代表的なものは以下の4種です。
・カッコウ
・ホトトギス
・ツツドリ
・ジュウイチ
それぞれの、生態や大きさなどを、詳しく解説します。
カッコウ

托卵をする鳥類として良く知られている鳥が「カッコウ」です。カッコウは主にオオヨシキリやオナガといった鳥類に托卵しています。
全長 | 35cm |
渡り区分 | 夏鳥 |
生息地 | 市街・住宅地/農耕地/森林/草地(本州中部から北に多く生息) |
特徴 | 体は細身で頭から背、翼の上面などは灰色、腹は白色で細かい横縞があります。「カッコウ カッコウ」と特徴のある声で鳴きます |
ホトトギス

「ホトトギス」はウグイスに托卵することが多い鳥です。戦国時代の三英傑(織田信長・豊臣秀吉・徳川家康)の性格をたとえた歌に出てくる鳥としても有名です。
全長 | 28cm |
渡り区分 | 夏鳥 |
生息地 | 森林(九州以北で繁殖しますが、北海道南部にも少数生息) |
特徴 | カッコウとよく似た形、色彩をしています。いわば小柄なカッコウともいえるシルエットです |
ツツドリ

ホトトギスと姿、形は大変よく似ていますが、ホトトギスより一回り大きい鳥です。主にセンダイムシクイに托卵します。「ポポ ポポ」と鼓を打つような特徴的な鳴き声で鳴きます。
全長 | 33cm |
渡り区分 | 夏鳥 |
生息地 | 市街・住宅地/森林(四国以北、本州、北海道に渡来) |
特徴 | 頭から背・翼の上面は灰色で、腹は白く、黒い横縞がはっきりしています |
ジュウイチ

九州以北の山地の林に渡来。他のカッコウ科より標高が高いところに生息しており、コルリ、オオルリなどに托卵します。名前の由来は、その鳴き声からといわれています。
全長 | 32cm |
渡り区分 | 夏鳥 |
生息地 | 森林 |
特徴 | 成鳥も幼鳥も体の色は小型のタカに似ている。成鳥は上面が灰色で、腹は脇の部分がオレンジがかっている |
托卵される代表的な鳥
次に、托卵される代表的な鳥を紹介します。それは、以下の4種類です。
・オオヨシキリ
・オナガ
・ウグイス
・ホオジロ
それぞれの鳥の概要について、詳しくみていきましょう。
オオヨシキリ

その名前の由来ともいわれている「ヨシ」を束ねて巣を作り、子育てを行います。鳴き声が大きいことでも知られています。
全長 | 18.5cm |
渡り区分 | 夏鳥 |
生息地 | 河川・湖沼/草地 |
特徴 | 頭から背、翼の上面、尾の上面は淡褐色をしています。下面は黄白色。口元にひげがあり、腰は淡色です |
オナガ

カラスの仲間であり、中部地方より北の本州の都市部に生息しています。渡りは行わず、四季を通して日本国内で暮らしています。
全長 | 37cm |
渡り区分 | 留鳥 |
生息地 | 市街・住宅地 |
特徴 | 頭部が黒く、翼は短く幅広であり、名前の由来ともいわれている尾が長いところが特徴です |
ウグイス

鳴き声が「ホーホケキョ」と美声であることから、多くの人々に知られている鳥の一種です。うぐいす色の語源ともいわれています。
全長 | 15.5cm(オス)、13.5cm(メス) |
渡り区分 | 留鳥/漂鳥 |
生息地 | 市街・住宅地/森林/草地 |
特徴 | 日本では全国の平地から山地の林、およびその周辺にある藪で繁殖します。秋冬には山地に生息している個体は、平地に下ってきます。羽色は緑というよりも暗緑茶色です |
ホオジロ

木の頂や電線・フェンス上など、高い場所で胸を張った姿勢で鳴く鳥であるため、意外と見つけやすい鳥といえるでしょう。
全長 | 16.5cm |
渡り区分 | 留鳥 |
生息地 | 農耕地/草地 |
特徴 | 全体は赤味のある褐色で、背には黒色の縦斑があります。オスの顔は白と黒の模様で眉斑と頬線は白色で、襟は灰色です |
托卵のメカニズム

カッコウなどの托卵をする鳥は、オオヨシキリなどの托卵される鳥が巣を作り、その巣の中で卵を産むまで辛抱強く見張ります。そして、オオヨシキリが卵を産み、エサを採りに行くなど親鳥が巣を離れたほんの一瞬の隙に、カッコウは巣に忍び込み卵を1個加えて抜き取って、すぐに自分の卵を巣の中で産みます。
カッコウは、オオヨシキリに比べて成長スピードが速いため、オオヨシキリのひなより早く孵化します。そして、オオヨシキリの親鳥がエサを採りに出かけているときに、カッコウのひなは、すべてのオオヨシキリの孵化前の卵を巣の外に捨ててしまいます。
このように、カッコウのひな鳥はエサを取り合う「敵」となってしまう、兄弟姉妹を排除することで、オオヨシキリの親鳥からもらうエサを独り占めして、成長をしていきます。
托卵する理由

カッコウに代表される托卵をする鳥が、なぜ自分で子育てをせずに托卵するのか、その理由については、はっきりとは分かっていません。
一説によると、カッコウなどの鳥は自分の体温を保つ能力が低く、体温の変動が激しいため卵を温めることに不向きだからだといわれています。
まとめ
本記事では、自分が生んだ卵を他の種の鳥に温めてもらい、子育てをしてもらう「托卵」について、解説しました。
もともと産んだ自分の卵ではなく、何のゆかりもない別の種の卵を温め孵化し、子育てを行うという、とても不条理な厳しい自然の掟が垣間見れたのではないでしょうか。
自然の世界では、厳しい生存競争が行われているという事実を、たまに思い返してみるのもよいのではないでしょうか。