2020.5.30
5羽のツバメの雛を保護 JWCの実際に行った活動をご紹介!!
今回は、実際に行った保護からリリースまでの流れをご紹介します。
『巣ごと保護されてきた5羽のツバメの雛』編
―ひなとの出会いは?
2014年6月
JWCと提携しているのづた動物病院にツバメのヒナが連れてこられました。
見つけた方の話によると、巣ごと建物の壁下に落ちていたとの事で、
恐らくは壁から巣が剥離してしまったのではないかと考えられました。
ツバメは、以前にも巣を作ったところを覚えていて、よく同じところに巣を作ると言われていますが、
建物の形状が変わったりすると作りにくくなってしまったりすることもあります。

─巣の場所を覚えているように、施設に戻って来たりはしないのですか?
ツバメがよく巣に戻ってくるのは、巣を作りやすい環境
➀人の往来があり天敵に狙われにくい
②日が当たりにくい
③餌の調達がしやすい場所
があるからです。
うちで飼養する際は室内の為、
残念ながら施設に戻ってくることはありませんでした。
それでも、施設の外に巣を作ってくれないかな…
と少しばかり期待はしたのですが、
施設構造上カラスなどの天敵に狙われやすいという点で、
巣を作ってくれないのではないかと思います。
本当に残念ですが…。
―なるほど。
本来であれば、支えを作って巣を元の場所に戻す事が最善なのですが、
今回はそれも難しく、親鳥も近くにいる様子がなかった事で、
ヒナたちだけが病院に連れてこられました。
羽はほぼ生えているものの、まだ産毛が残っていて、孵化後約2週間前後かと思われます。
幸い5羽のヒナはみな元気そうで、どの子も大きな口を開けてエサをねだっていました。
ヒナはこの様子がバロメーターになります。
しっかり食べてくれる事が何よりの成長の糧になります。

―施設で、実際の環境に近づけるための工夫を教えてください。
まずは、保温。
ヒナは寒さが大敵です。
幸いこの子たちは兄弟で団子になり、お互いの体温で温め合っていられましたが、
巣はその保温のためにも重要な役割をします。
そこで、新聞紙で5羽のヒナがちょうど収まる
器を作り、さらに下から半分だけヒーターで温めます。
こうする事で、ヒナは暑くなると自分で涼しい場所に移動する事ができます。
また、ヒナは排泄のときに、巣のヘリにお尻を出し、
外側に落ちるようにフンを出すのですが、新聞紙の器の縁を適度に作る事で、
保護されたヒナも同様な排泄行動が取れるようにしておきます。
ここまでの準備の間も当然ながら餌やりを行います。
最初は栄養補給のために、練り餌を芋虫状にして与えます。
保護されるまでの間、どれだけ食事をしていなかったかも心配なところですが、
みんなしっかり食べてくれ、ひとまず安心です。
満腹になると出すふんでそれぞれの健康状態も確認します。
ここからは、絶え間ない餌やりとの勝負となります。
最初の3日は1時間おきに餌やり。
とはいえ、練り餌作り、生き餌の確保、5羽の餌やり、ふんの始末で、
毎日6時から19時までほぼつきっきり状態です。
―練り餌とは何を混ぜているのでしょうか。
練り餌は、フォーミュラーとすり餌(三分餌)をぬるま湯で溶いて、
団子状にしたものを与えています。
因みに、すり餌には七分餌、五分餌、三分餌とあります。
この七分、五分、三分というのは上餌(ベース)が植物質(米糠・麦粉など)、
下餌が動物質(魚粉など)の割合となっていて、
植物食の鳥、昆虫食の鳥ですり餌を使い分けます。
(植物食の鳥であっても、雛の頃には五分餌を与えたりもします)
今回お話ししたツバメは昆虫食の鳥なので七分餌を使用しました。
また、この子達は比較的元気だったのでこの二種類のみでしたが、
状態によっては黄卵粉や栄養補助食、ネクトンなども組み合わせています。
生餌についてはミルワームを与えています。
ただ、ミルワームだけでは栄養が偏ってしまうというのと、
ミルワームも500gでだいたい400円前後なのですが、
1匹でそのひとパックを一日で食べてしまうこともあるので、
経済的にかなり厳しく…。
自家繁殖もさせていますが、全く追いつきません。
なので、近くでバッタやコオロギといったものを捕まえてきて与えたりもしています。
虫取りは朝方が捕まえやすいので、早朝6時から近くの草原で行います。
周りの方から見たらいい大人が何してるんだろう…と思われてるかもしれませんが、
ツバメたちの為には必要なので無心でいつも虫を取っています(笑)
―なるほど。鳥によって餌を変えたり、
栄養を気遣って組み合わせを変えていく事が大事なんですね。
虫取りから始めるのは衝撃的ですね。
4日目くらいから、成長の早い子は羽繕いを始めました。
この頃から餌は生き餌中心とし、食事の間隔も少しずつ開けていきます。
1週間目
2羽ほど巣の縁に止まるようになりました。
そろそろ巣立ちの準備です。
この頃になると餌の摂取量は少なくなります。
ただただ口を開けるのではなく、エサを追いかけて自分でついばむようになります。
2週間目
巣の外の止まり木用に渡した細めのロープまで飛んで、上手に止まれるようになりました。
ほぼ巣立ちですが、もう少し餌やりは続きます。
ハエやガ等飛んでいる虫を追いかけさせます。

3週間目
開放した室内を旋回してしっかり飛び回れるようになりました。
この後、天候の良い早朝に窓から5羽一緒にフリーリリースを行いました。

親に育てられた子は、ここからも生活する上でのいろいろな事を親から教えてもらうのですが、
この子達にそれを教える術はありません。
私たちは生きるチャンスを与えたに過ぎず、まだまだ心配は尽きません。
無事に生き延びてくれる事を祈るばかりですが、
自然界では、強い生き物(哺乳類や、猛禽類)の生存も、
生態系のバランスのためには大切なことです。
小さな弱い生き物が捕食されることで彼らの子供達の成長も可能となり、
バランスも保たれているのです。
我々がリリースできた子たちが、無事繁殖できることは理想ですが、
たとえ捕食されたとしても、それも立派な使命なのだと、
私たちは心に止めなければならないことと思っています。
―病院から連れてこられる個体数について
本当に年によって保護頭数も、個体の割合もまちまちです。
昨年度は比較的落ち着いていて保護件数自体は22件でしたが、
多い年では50件以上の時もあります。
ツバメは、昨年度は一羽だけ保護されてきました。
しかし、今回のツバメの時のように5~6羽が保護されてくることもありました。
また、単に数の多少だけではなく、保護されてくる個体の症状の重さも違ってきます。
保護件数が多くても、すぐにリリースが可能な個体が多いときもあれば、
保護件数が少なくても、重症の子が多く、
付きっきりのお世話が必要な個体が同時期に複数いるときもあります。
実際に、昨年度も保護件数自体は少なかったものの、
3件ほどは手術が必要な個体でした。
因みに、少し余談にはなりますが、
今年度も例年に比べ保護件数は少ない傾向にあります。
というのも、新型コロナウィルスの影響で外出が自粛となっている為、
そういった動物を見つける方が少ないからだと考えられます。
それについて、悲しいとは思いません。
弱っている動物は他の動物の生きる糧となります。
自然の中で、無駄な命はひとつとしありません。
それがその子の運命だったのでしょう。
ですが、誰かの目に触れ、見つけた方が助けたいと思って下さったのなら、
それもその子の運命なのだと思います。
見つけた方が、何かしらの関わりを持つことで、
改めて環境の事や命の重さを感じて頂けたならば、
それも彼らの大切な枠割であり、私達の活動もそうやって保護されてきた子達に、
また自然の中で生きる道をほんの少しだけ広げてあげる、
というものだと思っております。
団体について
みなさん、ジャパンワイルドライフセンター(通称JWC)という団体をご存じですか?
この団体では、
主に保護されてきた傷病野生動物の治療とリリースを目的とした活動を行っております。
これまでの活動として、
・世界の野生動物保護団体への支援
・ボランティア活動の受け入れ
・特定の動物保護プロジェクトの推進
・国内の傷病野生鳥獣保護
・生息地と生息環境保全の講演/イベント 等を行っています。
〈活動目標〉
野生動物保護の現場では、自己満足な押し付けの活動でなく、
地域住民の立場や考え方を尊重して対応できる柔軟な姿勢が求められています。
広い視野で解決策を考えられる日本人のセンスが今こそ必要とされているのです。
そして、
美しい地球と動物たちを次世代の子供たちに遺していくこと、
それがJWCの目指す活動なのです。