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Pups on Parole。刑務所のドッグトレーニングとは!?

2024.1.25

目次

盲導犬をはじめとするサービスドッグも少しづつ日本でも認知が広まっているようですが、今回の記事ではPups on Parole(パップス オン パロール)について紹介したいと思います。 

Pups on Parole(パップス オン パロール)とは

これは犬のトレーニングプログラムの名前で、他にも下記のようなプログラムあります。

Paws on Parole(ポーズ オン パロール)

Pups for Parole(パップス フォー パロール)

Prison Dog Programme(プリズン ドッグ プログラム)

この犬のトレーニングプログラムでは、刑務所の受刑者たちによって犬のトレーニングが行われます。

元々はアメリカなどで始まったプログラムですが、この10年くらいで私の住む国(オーストラリア)でも少しづつ取り入れはじめています。

“on parole” という言葉自体は仮釈放という意味ですが、実際に犬が仮釈放になるわけではありません。

場所が刑務所内ということもあり、また犬たちの終の棲家を見つけるための一時的な状態ということもあり。このような名前がつけられているそうです。

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画像引用元:Pixabay

トレーニングされる犬はどんな犬?

犬はレスキューなどにいる犬たちで、保護された背景はいろいろですが、新しい家族を見つけるためにトレーニングが必要な場合があります。トレーニングを受けていないと、人間との信頼関係も築きにくくいわゆる「いうことを聞かない犬」になってしまい、最悪の場合に人間に噛み付いたりすることに繋がりかねません。

あまりにも犬が攻撃的過ぎたり、噛み付いたりした場合は、残念ながら殺処分、安楽死になることもあります。仮に安楽死にならなくても、新たな飼い主が見つかりにくくなる大きな要因になります。犬にとっては何もいいことはありません。要するに新しい飼い主を見つけやすくするためにトレーニングを受けるのですが、注目すべきは「刑務所内で受刑者によってトレーニングが行われる」ということです。

受刑者がトレーニングをするってどういうこと?

これらの犬のトレーニングプログラムでは刑務所内で受刑者が服役中にトレーニングを行います。

ここでは私が実際に刑務所に行った時に聞いた例を紹介します。

受刑者は 「administrative, high, medium, low, minimum」 と受刑者の罪や犯罪歴によってセキュリティーレベルが異なる建物で過ごします。そのうちminimum security は壁も低くかなりの自由が与えられています。このminimum security にいる男性受刑者の希望者が、適性などを考慮された上で選ばれ、犬のトレーニングを行います。 

選抜された受刑者はドッグトレーニングの未経験者です。

犬のトレーニング中は受刑者であるトレーナーは24時間犬とともに過ごします。外部のレスキュー団体からトレーニングサポートを受けながら、トレーニングを進めていきます。トレーニングエリアには、障害物などトレーニングができる設備がありそこでトレーニングを行います。

そこにはもちろん監視の目はあり、刑務官がついています。(一応刑務所内なので)犬の進捗によってトレーニング期間は異なり、基本的に犬が譲渡可能な状態になるまでトレーニングは続きますが、中には犬より先に受刑者が刑務所を後にすることもあります。犬のトレーニングが譲渡可能レベルまで完了すると、受刑者とはお別れです。

私の個人的な感想ですが、24時間一定の時間をともに過ごした犬とのお別れはかなり寂しいだろうなと思います。一般的に、受刑期間終了後は釈放となり、出所後はいろいろと国からのサポートはいろいろあるものの、生活に困窮したり、精神的に辛い思いする人も少なくありません。しかしトレーナーは出所後にドッグトレーナーとして働く人もいます。

ちなみにこの刑務所ではCat programme もあり、女性受刑者たちが世話をしているということだけ聞きました。 

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画像引用元:Pixabay

トレーニングの効果はあるの?

犬にとってのドッグトレーニング効果は言うまでもなく、人間と信頼関係を築けるようになり、攻撃性なども改善されるので、新しい飼い主が見つかりやすくなります。24時間ともに面倒を見てくれる人と過ごすので穏やかになる犬も少なくありません。殺処分になることなく、トレーニングを受け、新しい飼い主が見つかるだなんて、最悪の状態から最高の結果になるというのは大きな違いですよね。

人間にとってのトレーニング効果は、トレーナーである受刑者はトレーニングを行うことによって「我慢ができるようになった」「弱い者を守りたいと思うようになった」「喜びを感じるようになった」「条件や見返りを求めなくなった」「自分に自信がついた」更生に必要な自身の変化を感じています。

「犬たちは自分たちを(トレーナー)受刑者として見ないでいてくれる」ことがトレーナーたちが犬に心を開くきっかけにもなっているようです。受刑者には犯罪を犯し、収監されるまでにいろいろな背景があり、難しい家庭環境で育った場合も多くいます。そんな自分にどんな時も変わらずにいてくれる犬に自分の心が癒やされるとも聞きました。

このようなプログラムの主な目的として、受刑者の癒やしのためではないと言及されることも多く見かけます。しかしながら、実際には癒やされるというトレーナー(受刑者)も多くいるのも現実です。

このようにPups on Parole の実施により、犬にとってはトレーニングは成長のチャンス、トレーナーである受刑者にとっては、動物に心を癒され、ドッグトレーナーとしてのスキルも手に入れながら自分を見つめ直し、そして人間としても成長する素晴らしい機会であり、結果的にwin-winをもたらします。

しかし、これだけではないのです。それは、行き場のない、殺処分の可能性がある犬をトレーニングすることによって、新しい飼い主が見つかりやすくするというのは、コミュニティーへのお返しであるとも考えられています。誰がトレーニングをしたかは守秘義務で新しい飼い主には明かされませんが、刑務所内でトレーニングを受けたということは新しい飼い主に明かされます。犬を通して、犬と受刑者とコミュニティーがこのように社会貢献としてつながるというのはすごいなと思います。

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画像引用元:Pixabay

日本に似たようなドッグトレーニングの仕組みはあるのか?

島根県の島根あさひ社会復帰促進センターという国と民間の知識経験をもとに運営されている刑務所では、受刑者による「盲導犬/パピープログラム」が日本盲導犬協会の協力のもと行われています。

一般的には生後1歳まではパピーウォーカーが家庭で預かり、人間を好きになるように育ててもらうと聞きますが、それを受刑者によって刑務所内で行われています。

社会にはいろいろな形が考え方があるなと常々思いますが、私としては刑務所に動物がいるということ自体が目に鱗でした。このようにして1つでも多くの命が救われる手段があるのであれば、いろいろクリアすべき壁があると思いますが、日本でももっと進むといいなと思います。

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