夕暮れの山道の路肩に立ち、こちらを見るニホンジカ

シカはなぜ道路に出てくるのか?衝突が増え続けている理由と、出会ったときの対処

2026.8.30

目次

夜の山道で、前方に何かが光る。近づくと、シカがこちらを見て立っている——。

日本に暮らす100人に「野生動物を見たときの体験」を聞いたところ、目撃した場所の2番目に多かったのが、車の運転中でした。

シカやイノシシとの衝突は、いま全国で増え続けています。なぜ彼らは道路に出てくるのか。なぜ逃げてくれないのか。公的な統計と資料をたどると、人間の側が彼らの行動を変えてしまったという事情が見えてきました。

この記事について

  • 体験談は、日本国内在住の21〜75歳100人へのインターネットアンケート(2026年8月実施)から
  • 統計と生態の解説は、北海道警察・北海道庁・群馬県安中市・国土交通省・JAFおよび査読誌の論文に基づいています
  • 出典は本文中に明記しています

シカとの衝突は、増え続けている

夜の道路の真ん中で、車のライトに照らされて動かないシカ
ヘッドライトの光を見ると硬直するシカが多く、目は光を反射してよく光ります

まず、どれくらい起きているのかを見てみます。

北海道警察の統計によると、令和7年(2025年)にエゾシカが関係した交通事故は6,705件。前年より1,245件増えて、9年連続で最多記録を更新でした。

調査を開始した平成16年(2004年)の1,170件と比べると、約5.7倍になります。

出典:北海道警察本部交通企画課「エゾシカが関係する交通事故の発生状況(令和7年中)」 https://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/info/koutuu/sika_jiko/sika_jiko.pdf

鉄道でも同じことが起きています。国土交通省の「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」によると、動物が原因で列車の運休や30分以上の遅れが出た件数は2000年代以降増え続け、2020年度以降は年間1,000件を超えて推移しています。その大半は本州以南ではニホンジカ、北海道ではエゾシカによるものとされています。

高速道路に目を向けると、NEXCO3社と本四高速によるロードキル(動物の死骸)の処理件数は年間5.1万件です(令和5年度)。

なぜ夜に多いのか——人間が、そうさせた

シカの事故は、圧倒的に夜に起きています。

北海道警の統計では、夜間の発生が全体の99.5%でした。昼間はわずか33件です。

図1 シカとの交通事故が起きた時間帯(北海道・令和7年)
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900 2000 0〜2時 269 2〜4時 279 4〜6時 423 6〜8時 272 8〜10時 172 10〜12時 141 12〜14時 129 14〜16時 189 16〜18時 1506 18〜20時 1932 20〜22時 891 22〜24時 502

単位:件。出典:北海道警察本部交通企画課「エゾシカが関係する交通事故の発生状況(令和7年中)」

18〜20時が最も多く、次いで16〜18時。いっぽうで10〜14時はほとんど起きていません。

本来は「薄明薄暮性」の動物

シカはもともと夜行性ではありません。日の出前と日没直後の薄明るい時間帯に活動する「薄明薄暮性」の動物です。

ではなぜ、深夜にも見かけるのでしょうか。群馬県安中市の資料に、はっきりとした説明がありました。

シカが夜に動くようになった理由(群馬県安中市の資料より)

  • 昼間には畑に人がいる
  • 山の中ならハンターがシカを撃ちに来ることもある
  • このためシカが生活パターンを変えて夜に行動するようになり、人気のない夜の畑におりてくるようになった

つまりシカが夜に道路へ出てくるのは、人間の活動を避けた結果ということです。

私たちが「夜になると急に出てくる」と感じているその行動は、人間が昼間の山と畑を占めたことへの、シカ側の答え合わせでもあります。

アンケート回答者 30歳・男性・滋賀県

8年前の夜に、田舎の山の近い道路の真ん中にシカが静止して立っていた。

なぜ逃げてくれないのか

事故を経験した人の話でよく出てくるのが、「シカが動かなかった」「こちらを見ていた」という描写です。

アンケート回答者 52歳・女性・奈良県

山道を車で走っていて、なんかの目が光ってるなぁと思って、ゆっくり近づいたら鹿がこっちを睨んでいた。

これには理由があります。

表1 シカが道路で動けなくなる理由
起きること理由
光る目が見えるシカの目はヘッドライトの光を反射してよく光る
その場で固まるヘッドライトの光を見ると硬直するシカが多い
逃げ遅れるアスファルト上では蹄が滑ってしまい、逃げるのが遅くなる。焦って転ぶこともある
ライトや音に反応して止まる車のライトや走行音に反応して立ち止まることがある

出典:群馬県安中市「シカと車の衝突事故に注意してください!」/北海道庁 環境生活部自然環境局「エゾシカとの交通事故防止について」

道路の上は、シカにとって走りにくく、視界も奪われる場所。シカは光に驚いて動けなくなり、逃げようとしても蹄が滑る。

クラクションは逆効果

意外かもしれませんが、クラクションを鳴らすのは逆効果とされています。

安中市の資料には「クラクションの音に驚いたシカが道路上に立ち尽くしてしまい、車と衝突してしまうこともあるので、出来ればクラクションは鳴らさない方が良いでしょう」と書かれています。

道路上でシカが固まってしまったら、人間側が減速して、徐行で通り過ぎるしかないというのが答えです。

出典:群馬県安中市「シカと車の衝突事故に注意してください!」 https://www.city.annaka.lg.jp/uploaded/attachment/9192.pdf

1頭で、終わらない

夕暮れの道路脇に集まる複数頭のシカ。1頭が道路に踏み出している
1頭飛び出してきたら、4〜5頭は出てくる可能性があります

もうひとつ、必ず知っておきたいことがあります。

アンケート回答者 50歳・男性・埼玉県

昨年夜間、鹿3頭が車の前に飛び出してきた事が一番驚きを感じています。

シカは群れで行動しているからです。

北海道庁は「エゾシカは群れで行動しており、2頭目以降が飛び出してくる可能性があります」として、「1頭の横断を確認した後も警戒を怠らない」よう呼びかけています。安中市の資料はさらに踏み込んで、「1頭飛び出して来たら4〜5頭は出てくる可能性あり」としています。

今回のアンケートには、これを実践していた方がいました。

アンケート回答者 34歳・女性・東京都

10年くらい前、北海道に旅行に行った時に車で走っていた時に野生のキツネを見つけた。道を横切ったので一旦停止し、少し待ってから渡り切ったのを確認してから再び走り出した。

一度止まって、渡り切るのを見届けてから動く。これが正解です。

多い時期は、地域によって違う

「秋に多い」とよく言われますが、調べてみると地域によってパターンが違うでした。

北海道は10〜11月に集中する

図2 シカとの交通事故が起きた月(北海道・令和7年)
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 1300 1400 1500 1600 1月 245 2月 154 3月 226 4月 424 5月 402 6月 438 7月 421 8月 388 9月 616 10月 1531 11月 1206 12月 654

単位:件。出典:北海道警察本部交通企画課「エゾシカが関係する交通事故の発生状況(令和7年中)」

10月が1,531件(22.8%)、11月が1,206件(18.0%)。この2か月だけで、年間のおよそ4割を占めます。

北海道庁は理由をこう説明しています。「10〜11月はエゾシカの繁殖期で動きが活発になるほか、越冬地へ移動する時期にも重なります」

出典:北海道庁 環境生活部自然環境局「エゾシカとの交通事故防止について」 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/est/ht/traffic_accident.html

本州は春と秋の「二峰型」

いっぽう本州では、違う形が報告されています。

中央線(高尾〜小淵沢)と青梅線(青梅〜奥多摩)のシカとの衝撃データを分析した論文によると、中央線では春から秋にかけて件数が多く、特に6月と10月に集中、冬季(12〜3月)は顕著に少なかったとされています。

青梅線では6月に突出した増加が見られ、両線区ともに春と秋に衝撃のピーク期があり、冬季に減少する季節性とまとめられています。

つまり、北海道は秋に一極集中、本州は春と秋の二山。北海道の「越冬地への移動」という事情は、本州にはそのまま当てはまりません。

出会ったとき、ぶつかったとき

ここからは実際の対処です。

シカに出会ってしまったら

  • 急ハンドルを切らない。ブレーキで回避できない場合は、よほどの大型動物でない限りまっすぐ衝突するしかない
  • クラクションを鳴らさない。驚いて立ち尽くすことがある
  • 道路上で固まっていたら、減速して徐行で通り過ぎる
  • 夜間、光るものが視界に入ったら「シカかもしれない」と思ってすぐ減速する
  • 1頭渡っても、そこで安心しない

急ハンドルを避けるべき理由は、統計にはっきり表れています。北海道警がまとめた令和7年の人身事故7件のうち、1件がこれです。

実際に起きた人身事故(北海道警の資料より)

  • 左カーブを進行中、左から飛び出してきた鹿に驚き、右に急ハンドルを切ったため、ガードレールに衝突した
  • 直線路を進行中、進路前方で鹿と衝突して停止中の車両に追突した
  • 直線路を進行中、進路前方で鹿に気付き減速した車両に追突した

シカそのものより、避けようとした動きや、その後の追突で人が傷ついています。この統計には注記があり、「鹿を避けようとして交通事故を起こした場合も件数に含みます」とされています。

ぶつかってしまったら

衝突後にすること

  • 警察に連絡する。道路交通法第72条により、事故の発生を警察に連絡し、道路における危険を防止する措置を講じる義務があります
  • 任意保険を使うには事故証明が必要です(野生動物との衝突は単独事故扱い。自賠責保険は物損に対応しないため、車両保険を使うことになります)
  • 素手で動物に触らない。生きていればタオルや段ボール等で保護、死んでいれば交通の妨げにならないよう路肩へ移動する
  • 高速道路の場合は道路緊急ダイヤル「#9910」

出典:JAF「野生動物と遭遇、衝突したら」 https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-trouble/subcategory-support/faq260

ひかれたシカを道路上に放置するのは危険です。安中市も「すぐに警察や道路管理者に連絡し、処置をお願いしましょう」としています。

じつは、本州の道路には統計がない

この記事を書くために統計を探して、ひとつ気づいたことがあります。

本州の一般道でシカとの衝突が何件起きているのか、まとまった数字が見つからないのです。

先ほどの論文に、その理由が書かれていました。

なぜ本州の道路には数字がないのか

  • 一般道の場合、衝突件数や衝突箇所が日常的に正確に記録される体制は十分ではない
  • これに対して鉄道では、衝撃の発生日時や地点が輸送障害報告書として詳細に記録されるため、データを定量的に把握できる

北海道に詳しい統計があるのは、エゾシカの事故が深刻で、警察が調査項目として記録し続けてきたからです。本州の道路では、そもそも数えられていない

身近な場所で起きていることほど、記録が残っていない。これはコウモリの記事でも同じでした。

まとめ

シカが道路に出てくる理由と、出会ったときの対処を見てきました。

シカは本来、日の出前と日没直後に動く薄明薄暮性の動物です。それが夜に道路へ出てくるようになったのは、昼間の畑に人がいて、山にハンターが来るからでした。事故の99.5%が夜に起きているのは、その結果です。

出会ったときは、急ハンドルもクラクションも避けて、減速して徐行する。1頭渡っても、その後ろにまだいると考える。ぶつかってしまったら警察に連絡し、素手では触らない。

衝突は増え続けています。それは動物が増えたからでもあり、私たちが彼らの生活時間を変えてしまった結果でもあります。

道路で出会う野生動物については、日本で見られる野生動物ランキングクマに遭遇したらどうする?もあわせてご覧ください。

出典:国土交通省「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」/「鉄道現場データに基づくシカ侵入経路の特徴と対策への示唆」(第25回「野生生物と交通」シンポジウム・2025年11月)

出典:群馬県安中市「シカをひいてしまった場合」 https://www.city.annaka.lg.jp/uploaded/attachment/9193.pdf

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