環境問題は人権問題!その影響は私たちの日常にも及んでいる
2024.4.19
目次
2024年4月10日、「気候変動の対策が十分でなければ、それは人権侵害にあたる」というスイス市民の訴えが、欧州裁判所でみとめられました。政府の対策が人権をおびやかしているという判決を欧州人権裁判所がくだしたのは今回がはじめて。この余波は、欧州全体に広がっていくことになるでしょう。
ところで、なぜ環境問題が人権問題に関係しているのでしょうか。その理由と、すでに世界各国や日本の日常生活におよぼされている影響をご紹介します。
人権とは何か
人権とはすべての人間が生まれながらにして、人間らしい生活を送るために保障されている権利のこと。死ぬまで変わらずに保障されるべきものであり、国家や社会、他者がそれを傷つけることは許されません。
例えば、奴隷制度のように人を動物のように扱ったり、職業差別のように地位や仕事を理由に他人をさげすんだり、レイプやパワハラのように本人の気持ちや生活をふみにじる行為は人権侵害にあたります。
環境問題が人権問題と呼ばれるのはなぜ
従来、地球の温度が上昇していくことを「地球温暖化」と呼んできました。しかし、急速に進む環境の変化に、2023年7月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球沸騰化」という言葉をもちいて、状況の深刻さを警告。
自然環境や気候は私たち人間の生活の土台であり、実際に生活の変化や命の危険に直面している人がいます。そのことを知らぬまま、もし知っていても対策を考えないまま今の生活を続けていくことは、誰かの生活を脅かすこと、つまり人権侵害に該当してしまうのです。
環境問題によって侵害されている人権
さて、実際に環境問題はどのように人権に影響しているのでしょうか。具体的な例をいくつか紹介します。
①プラスチック廃棄と健康被害
プラスチックの廃棄による海洋汚染はよく知られていますが、実は大気汚染にも繋がっており、それによって健康を害している人たちがいます。
2019年時点で、マレーシアのセランゴール州には33件の違法プラスチック焼却所が存在していました。ひどい悪臭に加え、強い倦怠感・咳・皮疹などの健康被害が近隣住民のあいだで見られたといいます。さらに長期的に汚染された大気を吸っていると、発がんのリスクにも繋がります。
参考:Plastic pollution: One town smothered by 17,000 tonnes of rubbish
②気候変動と教育を受ける権利
発展途上国においても、現地の人々やNPO・NGOの取り組みによって、教育の場がすこしずつ整備されてきました。教育は、知識や技術を学ぶことで生活水準を向上させるのはもちろんのこと、他者とつながりを持てる場ともなり、ときに犯罪の抑止にもつながります。
しかし、先進国のように通学路が整っていない地域では、洪水で学校への道がふさがってしまうケースや、農作物が育たず通学どころではなくなる事態が起こっています。
気候変動や異常気象によって教育の恩恵を受けられない子どもたちは、貧困から抜け出せないだけではありません。生活の苦しさを少しでも和らげるために親が子どもを結婚させるしかなく、望まない早期結婚など、発展途上国で続いてきた女性人権の侵害を後押ししてしまいます。
③熱波と山火事
熱波の原因のひとつは、温度の上昇や大気汚染といった環境問題だといわれています。
2022年には、欧州で熱波による山火事が頻発。ポルトガルの北部では3万ヘクタールもの土地が消失。スペインでは2000人、そしてフランスでは1万2000人が避難を余儀なくされました。同年のヨーロッパ内で、熱波の影響で命を落とした方の数は、約6万2000人にのぼります。
参考:Heat-related mortality in Europe during the summer of 2022
④水分不足と生活の圧迫
干ばつも、地球温暖化によって促進されるものです。干ばつで水不足に陥ると、産業・生活・衛生問題など、幅広い範囲に影響がおよびます。
アメリカでは農業が盛んなカリフォルニア州が被害にあっています。気温上昇や山脈から雪解け水が流れてこないことから、甚大な干ばつが起こり、農業といった産業はもちろんのこと、家計にも大きな打撃を与えています。2021年は水不足による水道料金の値上がりにコロナの影響が重なり、結果として、全世帯の約1割にあたる160万人もの家庭が水道料金の支払いができない状況に陥りました。
参考:Survey results show Covid-19 financial impact on water system, customers (ca.gov)
日本における環境問題と人権の関係性
環境問題は、世界中で健康や子どもたちの教育と未来、そして人々の命に大きな影響をもたらしてきましたが、日本も例外ではありません。
日本の2023年の平均気温は、1991年から2020年の平均値と比較して、1.29度も上昇しました。これは記録を開始した1898年以降、最も大きな変化です。実際に、私たちが日々ニュースや新聞で目にする災害や事故にも繋がっています。
参考:日本の年平均気温
①熱中症患者の増加
厚生労働省が公開したデータによると、2022年の熱中症死亡者数は1528人。2000年と比べると約1300人も多くの方が亡くなっています。特に高齢者の被害が増えており、2022年の志望者中のうち、1316人は65歳以上の高齢者でした。
熱中症の患者数は平均気温よりも猛暑日や熱帯夜に増える傾向があるため、その数値は毎年増え続けているわけではありません。ですが、2018年以降の志望者数は3年連続で1,000人を上回っており、軽視してはいけない問題であることが分かります。地球環境を守ることは、自分の祖父母など身近な人を守ることに直結します。
②食品価格の高騰
秋の味覚の代表格だったさんまは、価格が急激に高騰し、気が付けば食卓にあまり並ばなくなりました。その背景にあるのは、温暖化によって生息地が狭くなったことと、潮の流れの変化で、さんまが沿岸に来なくなってしまったこと。
他にも毎日の食卓に欠かせないキャベツやトマト、ほうれん草などが気温上昇や大雨の影響を受けて収穫数が減り、価格が上がっています。一商品あたりの値上げは数十円などの微々たる差かもしれませんが、レジで合計金額を見ると驚くこともしばしば。
一般家計にとっても、生活に欠かせない食費が高騰するのは苦しいですが、日本にも一日三食を十分に食べられない世帯が存在しています。食品価格の高騰は日常生活だけでなく、国内の貧困問題も促進しています。
③観光産業への影響
2023年3月、政府は「観光立国推進基本計画」を改訂し、訪日外国人の平均消費額を20万円まで引き上げる目標を設定しました。
しかし、温暖化による雪不足や水質汚染が進むと、特にスキー場やビーチのような、自然環境が観光資源となっている地域は、観光地として成り立たなくなってしまいます。また、猛暑や大雨の日は観光客もあまり活発的に動き回らないため、消費額が減ってしまう可能性も否定できません。
現在、観光の目的地は都心から地方へと広がりを見せており、特に人口減少で基盤が弱まっている地域では、観光は欠かすことのできない財政源となっています。さらにホテル業やツアーガイド、地域の飲食店など、観光は多くの雇用を生み出しています。環境問題は観光地の景観や環境を崩してしまうだけでなく、そこで暮らす人々や働く人々の生活にも影響してしまうのです。
④豪雨の増加
地球温暖化は雨量の増加を引き起こし、その結果として土砂崩れや地域住民の一時的な孤立など、命や生活にかかわる問題が発生します。
2023年7月は九州で記録的な大雨が発生した際には、橋の崩壊・土砂崩れ・道の陥没など被害があいつぎ、住民たちは非難を余儀なくされました。
気象庁気象研究所の検証によると、2023年の6月から7月にかけての雨雲の発生数は、地球温暖化が進んでいないと仮定した状況と照らし合わせると全国的に多くなっており、特に九州地方では著しい増加が見られたとのことです。
参考:令和5年夏の大雨および記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究に取り組んでいます―イベント・アトリビューションによる速報―
⑤強い寒気や大雪
寒気や大雪は、地球温暖化とは真逆の減少にみえますが、実は深い繋がりがあります。海面の温度の上昇によって大気中の水蒸気が増加し、それが雪となり、甚大な積雪を引き起こしているのです。
冬になると、車やトラックが立ち往生してしまい、食料を届ける様子などがニュースで放送されていますが、これがまさに地球温暖化がもたらしている問題です。輸送の遅れや除雪中の事故につながるほか、寒さをしのぐために車中泊をしたところ、雪で排気管が覆われ一酸化中毒で死亡する事故もみられました。
環境と人権を守るためにできること
環境問題と私たちの生活の関わりは深く、命の危険にも繋がりますが、私生活のなかで簡単にできる対策はたくさんあります。そのうえ、節約や利便性に富んでいるものがほとんど。環境だけでなく自分の生活にも優しい、環境対策をお伝えします。
①エコバッグとマイボトルを活用する
プラスチックは採掘から加工、廃棄に至る工程でたくさんの二酸化炭素を排出しています。日本でも、カフェで紙ボトルや紙ストローの使用開始、スーパーやコンビニでのレジ袋有料化が進み、少しずつプラスチック削減への意識が高まっているように感じます。
ただ、企業努力だけでゴミを減らすのは難しいのも事実。エコバックの持参は、プラスチック使用料減少だけでなく、レジ袋代の節約につながります。マチが広いものを選ぶと、お肉のドリップやお惣菜の盛り付けの崩れ防止にも繋がるのも、ありがたいですね。
マイボトルもペットボトルの使用量と飲料代節約に繋がります。ペットボトルのお茶や水は1本100円前後。もし1年間毎日購入していたとすれば、約36,500円の節約で可能に。少し良いホテルに泊まったり、欲しかった洋服を買える額ではないでしょうか。家でボトルを洗い、水を入れるのは少し面倒くさいですが、コンビニの列に並ぶのに比べたら時短です。
②洋服を長く着られるように工夫する
実は生産、輸送や廃棄のなかで水質や大気に悪影響を及ぼしているファッション業界。おしゃれも楽しみたいところですが、無地のスキニーやニット、ジーンズなど年齢や流行を問わず着用できるものは、買う頻度と捨てる頻度を下げるために、極力長く着用するように工夫すること。
長持ちしやすいのはコットンやリネンのような自然素材で作られている洋服です。ファストファッションを繰り返し購入することを考えれば、質の良い洋服を1度購入するほうがお手頃です。
それでも、なかなか高い洋服に手が出せない人は、洗濯の仕方を工夫してみてください。お手入れ次第で、1~2年は寿命を伸ばせます。
③徒歩や自転車の移動を増やす
車の移動はとても便利ですが、排気ガスによる大気汚染に繋がります。近場へ出かけるときは、徒歩や自転車で移動をすること。
自動車では入りづらい小道を通ることができるので、いつも通っている道でも「こんなのあったんだ!」と思えるような初めてのお店や景色に出会うことができます。やってみたいことや楽しみが増えていくのがうれしいポイント。
パソコン作業やリモートワークで体力が落ちている人や身体が凝っている人には、少し身体を動かしたほうがリフレッシュできます。身体を動かして凝りや姿勢悪化を防止しておくと、集中力アップや作業率向上にも繋がります。
④ホテルのアメニティ使用は最小限に
ホテルのアメニティは無料なので、ついつい頼ってしまいますが、アメニティの大部分はプラスチック製です。そのため、小分けのシャンプーではなくボトルシャンプーを設置したり、ロビーで必要なアメニティだけを部屋に持ち込めるようにしたり、ホテル側も対策を練ってきました。
利用者も自分のバスグッズやブラシを持参するなど、アメニティの使用を控える工夫ができます。持参をしても、負担になるほど荷物が増えるということはありませんし、シャンプーが合わず肌荒れしてしまう事態や、髪の毛がきしんでしまうリスクを避けることにも繋がるので、安心です。
⑤リサイクルボックスの活用
スーパーやショッピングモールには、ペットボトルやお肉のトレーを入れるリサイクルボックスが設置されている店があります。持っていくのは少し面倒ですが、お買い物がてらに処分することができるので、ごみ捨ての頻度やごみ袋代の削減に繋がります。
最近は、ファッションブランドでもリサイクルやリユース用のボックスが設置されるようになりました。例えば、H&M、パタゴニア、ZARA、そしてユニクロなど、誰もが一度は行ったことがあるほど、身近なブランドばかりです。お店によっては、お返しにクーポンやオリジナルグッズがもらえることも。
個人での環境対策は「面倒くさそう」「お金がかかりそう」「難しそう」なものが多いように感じるかもしれません。ですが、「便利」「節約に繋がる」「簡単」にできることを積み重ねることが、身近な人たちの命を守ります。
たった1人の行動では何も変えられないかもしれません。ですが、自分がやってみることで家族や友人の行動が変わっていくこともありますよ。